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男らしさ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

男らしさ(おとこらしさ)は、性質、行動、体格、声などが、いかにも男であるように思われる状態であること。また、男はこうあるべきだといった観念群のことである。「女らしさ」という観念に対置されるもの。男振り、男っぷりともいう[1]

概説

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「男らしさ」や「女らしさ」という概念は、ジェンダー(生まれつきの性によって人が社会の中でどのようなあり方をしているか)という名称で括られて研究されている。

今から数百年前は、肉体的な性別と、男としてのありかたを区別できず同一視するような論調が世に溢れていたが、近年のジェンダー研究によって(相対的に)文化的な影響もあるとされるようになってきている。
今でも、かつてと同じように単純に生物学的差異(例えば脳の性差ホルモンの違いなどの性格の傾向への影響)を強調(あるいは混同)する人もいる。
無論、人間のありかたについては、文化的要素/生物的要素、その他様々な要素が、それぞれそれなりに影響を与え絡みあっているので、それらの影響の相対的な割合については、様々な学者から様々な指摘がなされている。

一概には言えないが、要素ごとに、文化的に醸成されたものである、とする見解[要出典]や、生物学的差異に由来するもの、とする見解[要出典]がある。例としては、前者を指摘する場合は、(しつけ)や社会環境(前述の文化・地域・宗教・歴史・家庭環境 等)による人格形成への影響などを指摘する見解[要出典]がある。後者を指摘する場合は、ホルモンの違い、(その結果として生じる)脳の性差などで性格・性向が規定されている可能性を指摘する見解[要出典]がある。文化人類学者などは文化的な面に比重を置いて言及し、生物学者などは生物学的な面に焦点を当てて他の面を見落としてしまうことが多い[要出典]。いずれにせよ、全ての要素を一般化して説明することは困難である。 [注 1]

なお、コミュニケーションのしかたについては、Deborah Tannen(en:Deborah Tannen)やJulia T. Wood(en:Julia T. Wood)らによって、男女差(「男らしさ」(「男のやりかた」)「女らしさ」(「女のやりかた」)があることが指摘されている。それが相互不理解、相互誤解のもとにもなっているという。詳しくは 「コミュニケーション#コミュニケーションの男女差」を参照のこと。

歴史

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産業革命期から第二次世界大戦後における男らしさとは、「男は弱音を吐かない、泣かない、女を守る」といったものから、男性を一方的に仕事や戦争に出すものまで様々な事例が存在し、その代償として男性優位(男性だけが大学などに進学できたり、社会の重要な職業に就くことが出来るなど)を得るものが多かった。

フェミニズム・保守層

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1970年代以降のフェミニズムは「男らしさ」批判を展開し、さらに保守層からは反論がおこった。こうした男らしさをめぐる論争は現在進行形で続いている。

フェミニズムやジェンダー論においては「男らしさ」「女らしさ」の具備を個々人に求める事が性差別を助長しているとする。それまでの男性優位の社会構造を改め、雇用や賃金の平等化など、両性平等の原則にのっとった社会政策が実施された。これによって女子の大学進学率などが向上したが、いっぽうで過渡的措置として女子優遇政策をとる場合があり、それも保守層の批判の的となった。

保守層からの批判とは、フェミニズム政策や「らしさ」の消失によって、少年達に様々な問題が露出しはじめ、少年達は真面目に勉学に励むという事をしなくなり、北欧アメリカで男子生徒の成績は急激に低下したとするものである(→ガールパワー)。様々な科目で少女達に遅れをとり、大学進学率も低下したと主張し、イギリスはこの男子の学業不振を社会問題として捉え、男らしさに基づいた教育制度が実施される事になった。アメリカでも同様に少年犯罪や学業低下を問題視し、「真に男らしい男とは責任感と弱者をいたわるジェントルマン精神を持つ男である」として男らしさを復活させようという運動がある[要出典]

「男らしさ」の具体例

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地域によって様々な違いがある。男性の精神的特徴(論理的、リーダーシップ)をとらえて規定するものもあり、肉体的特徴(筋肉質、高身長、強さ)をとらえて規定するものもある[2]

イギリス

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イギリスでは古くは騎士道にのっとった生き方が男らしい、と思われていた。その後、紳士的(ジェントルマン)であることが最大の男らしさと考えられていた。紳士道からレディーファーストの理念も発達し、ただ力を誇示するだけでなく、女性を尊重してこそ誠に男らしいとされる文化が発達した[要出典]

フランス

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フランスでは早い段階で、男性らしさや女性らしさより、個性や人間らしさが評価されるようになった[要出典]

日本

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戦国時代

  • 武士に生まれたものの間では武士道にのっとった生き方をすること[要出典]
  • 自分の生物的な生命よりも、名誉や理念を重んじること。
  • 潔さ
  • 倹約節約する。無駄遣いをしない。金銭に拘泥しないこと。

幕末、明治時代

  • 自分ひとりの身のことより、天下国家のことを考えること。
  • 性的に放縦であること、絶倫であることなど、性の側面での卓越性が発揮できる人物[3]

第二次世界大戦前から戦後しばらくの間などは、例えば、以下のようなもの。

  • 能動的、判断力、決断力
  • 落ち着いていること
  • いさぎよさ
  • 我慢強さ
  • 無口
  • 不言実行(父親たちは「背中で語っていたものだった」などという)
  • 感情表現を抑えること。特に悲しみの感情の表出(泣くこと)や喜びの感情の表出は抑えるのがよしとされた。

第二次世界大戦後、高度成長期、現代において

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  • 判断力、決断力[注 2]、知力・胆力
  • 有言実行。公正なこと、やるべきこと、をはっきりと言い、言ったことを実行する。言うべきことを言わないような者、たとえば権力者を恐れて権力者に忖度して口を閉ざし、不正なことに手を貸すような者は「男らしくない」とされる。民主主義の価値観にもとづいた考え方。

「男らしい人が好み」と言う女性に「具体的にはどんな人ですか?」と質問すると、千差万別な答えが返ってくることがSPA!などの記事に取り上げられている。日本では男らしさのイメージは千差万別であり、万人が認めるような男らしさの概念が確立されているわけではない。

たとえば、家庭環境でそのイメージがどれほど異なるか下に例を挙げる。

  • 学者の家庭では)知能が高く、学問に秀でていて、知識層、社会の頭脳として活躍すること。知力や学識で女性を魅了することこそが「男らしさ」と理解され、頭が悪いこと(馬鹿)は男らしさの対極と理解される。
  • 経営者の家庭などでは)経営の能力が高く、労働者たちを使いこなす才覚があること。多くが先祖伝来の資産を持ち多くが親の代から法人を所有し経営者であるので、経営者家庭では、男らしさは身体を使ってあくせく働くことではない。経営者であることを見せつけて女性を魅了するのが「男らしさ」と考えられている。なお経営者の家庭では、先祖からの資産を受け継いだ女性が、先祖の代から続く法人を存続させるために婿養子を丁重に迎え経営者になってもらうこともあるので、男性がとりあえず女性に金銭的な援助をしてもらっても男らしくないなどとは考えない。
  • 肉体労働者の家庭)肉体労働者家庭、特にガテン系の職業の家庭では、筋力や体力、マッチョであることを見せつけて女性を魅了することが男らしさと考えられている。また家庭の外で、他人に使われる仕事をして、金をかせいでくること。肉体労働者家庭では女性の恋人や配偶者に十分な財産・収入があっても、男性が「養われる」のは男らしくないとする偏見があり、ヒモという蔑称を使うこともある。肉体労働者家庭では「男は強くて女は弱い」と思い込んでいる者も多く、ガテン系の家庭の一部では、男が自分が強いことを周囲に見せつけるために女性や子供を殴ってしまうということが起きがちである。肉体労働者家庭では、学者の家庭とは逆で、頭が悪くても男らしいと考えられることがある。

「男らしさ」は従来、男性側が自分の心で思い描いた自己像が多いが、現代の日本の社会では、女性の権利・発言力が増したので、自己中心的な考えの女性が自分にとって都合の良い男性像ばかりを延々と語るようになった。 [例 1]


男らしさへの批判

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フェミニズム

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フェミニストは男らしさ、女らしさを後天的に作られた男尊女卑的な性役割、「男らしさ」なるものは男性が強者としての立場から女性や弱者に一方的な「優しさ」を押し付けるパターナリズムとして否定し「らしさからの解放」を掲げている[要出典]

教育界

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教育界においても「性差で役割を固定するのは良くない、個性をつぶしてしまう」といわれ、現在の教育では画一的な男らしさは殆ど否定されつつある。代わりにジェンダーフリーが導入されているところがある。大学などの教育の場でも、「そもそも、男らしさ・女らしさ、とはいったい何なのか?」ということを考えさせる授業や講義がある。ただ、人によっては、男らしさ・女らしさはあってもいいではないか、という意見もある[要出典]性同一性障害の児童・生徒に対する教育上の配慮等も課題である。

男性による批判

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男らしさは男性の負担になるとして、男性自ら排除しようとする人々も数多く存在する。また、近年「女らしさ」の要求はタブー視されてきているのに、「男らしさ」への要求は今なお当然とする向きが残っていることに反発する意見も多い[要出典]

男らしさのコスト

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「男らしさのコスト」(the cost of masculinity)とは,マイケル・メスナー(en:Michael Messner)が提起した「男性は地位や特権と引き換えに,狭い男らしさの定義に合致するために―浅い人間関係,不健康,短命という形で―多大なコストを払いがちである」[4] という視点である。

脚注

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注釈

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  1. ^ (? どの"男らしさ"? どの要素??) [誰?]「それぞれの「男らしさ」の平均を取れば、普遍性のある枠内に従っており、精神的、肉体的側面における、支配、積極性、力強さの強調などは、普遍的だ[要出典]
  2. ^ 表裏の関係で、女性は「オロオロするばかり」とか「判断力が無い」などとされた。

用例

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  1. ^
    • (主に女性から見て)「(自分に対して、あくまで自分に対して)優しいこと」
    • (主に女性から見て)「(自分に対して)気前がいい」こと。これは従来の男らしさの観念と対立する。武士などでは、基本的に(有事に備えて)倹約家で無駄遣いをしない人が多かったので、お金をパッパッと出してしまうのは愚かで、欠点で、男らしくない。例えば、黒田官兵衛を生んだ、黒田家などでも倹約を美徳としていた(黒田家は「武士の中の武士」とも言われる)。黒田家でも、徳川家でも、基本的には倹約家が武士らしく、男らしいのである。なお、女性は、夫が男性後輩などに対して「気前がいい」のは評価したがらない。
    • (主に女性から見て、自分のところに)金を持ってくること(女性が言うところの"経済力")(allabout)。これは武士道の観点“金銭に拘泥しないこと”からすれば全然男らしくないので、違和感を覚える日本人もいる。
    • 「勤勉なこと」。奴隷のように働かされ搾取されても、それに気づかないでいる、女にとって都合のよい存在でいること(東南アジアや中南米では女に働かせて男は遊んでいるのが男らしいとされるので、全く逆である)。もともと、日本人の大半を占めていた農家でも、あるいは他のきちんと仕事をしている家でも、男・女ともに良く働くことが当然で、働き者であることが良い女性の条件とされていたのである。日本人の大半を占めていた農家では、良く働くことは、「男らしさ」ではなく、「女らしさ」でもあり、「人間らしさ」なのである。しかし、昭和期の日本で産業構造が変化する中で、そういう日本の(良き)伝統を失念してしまって、男性にばかり家の外に出て働くことをおしつけ、女性が家の中で大したこともせずダラダラと過ごしていても、それがおかしいとも感じないような観念構造が生まれた。こうした観念は通時的に見ても、地域的に見ても、あまり一般的とは言えない。安倍内閣総理大臣の2012年12月16日からの政権では(そうした《昭和期の》悪観念・悪習慣を是正し)、女性にも当然しっかり働いてもらおうという、しっかりした労働を当然荷ってもらおう、ということで「女性が輝く日本へ」と銘打って、三本の矢の政策の一部として実施しつつある。
    • (女性から見て、夫が)「家事育児などを手伝うこと。」

出典

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  1. ^ 男振り(おとこぶり) の意味・使い方”. goo辞書. 2023年3月17日閲覧。
  2. ^ 『「男らしさ」の人類学』デイヴィッド ギルモア (著)
  3. ^ 澁谷知美井上章一(編)、2008、「性教育はなぜ男子学生に禁欲を説いたか:1910~40年代の花柳病言説」、『性欲の文化史』1、講談社〈講談社選書メチエ〉 ISBN 9784062584258
  4. ^ 多賀太「男性学・男性性研究の視点と方法 : ジェンダーポリティクスと理論的射程の拡張」『国際ジェンダー学会誌』第17巻、国際ジェンダー学会、2019年12月25日、8-28頁、doi:10.32286/00023841ISSN 134873372021年8月11日閲覧 

関連項目

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関連文献

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