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ベスタ (小惑星)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ベスタ ⚶
(ヴェスタ)
4 Vesta
探査機ドーンが撮影したベスタ。南極にレアシルヴィアクレーターと中央丘が、また左上には"snowman"と呼ばれる3連クレーターが確認できる。
探査機ドーンが撮影したベスタ。南極にレアシルヴィアクレーターと中央丘が、また左上には"snowman"と呼ばれる3連クレーターが確認できる。
分類 小惑星
軌道の種類 小惑星帯
ベスタ族
発見
発見日 1807年3月29日
発見者 H. W. オルバース
軌道要素と性質
元期:2024年10月17日 (TDB 2460600.5 )[1]
軌道長半径 (a) 2.360925181338272 au[1]
近日点距離 (q) 2.148439261990307 au[1]
遠日点距離 (Q) 2.573411100686237 au[1]
離心率 (e) 0.0900011237236748[1]
公転周期 (P) 1325.017955106674 日
3.627701451352975 [1]
軌道傾斜角 (i) 7.143984971980259°[1]
近日点引数 (ω) 151.6763581982146°[1]
昇交点黄経 (Ω) 103.7046914919559°[1]
平均近点角 (M) 278.0231396052868°[1]
物理的性質
三軸径 572.6 x 557.2 x 446.4 km[1]
直径 525.4 km[1]
平均密度 3.456 g/cm3[1]
表面重力 0.30 m/s2[1]
脱出速度 0.39 km/s[1]
自転周期 5.34212766 時間[1]
スペクトル分類 V[1]
絶対等級 (H) 3.25[1]
光度係数 (G) 0.32[1]
アルベド(反射能) 0.4228[1]
色指数 (B-V) 0.782[1]
色指数 (U-B) 0.492[1]
Template (ノート 解説) ■Project

ベスタ[2] またはヴェスタ[3](4 Vesta)は、太陽系メインベルトに公転軌道を有する小惑星の1つである。1807年3月29日に、ドイツのブレーメンでヴィルヘルム・オルバースによって発見され、古代ローマの女神ウェスタにちなんで名付けられた。ただし、命名者はカール・フリードリヒ・ガウスである。

特徴

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ベスタ(青色)の軌道。赤色は惑星で、一番外側の軌道は木星。
推定されるベスタの内部構造。

1801年小惑星として発見されたケレス以来[注釈 1]、4例目の小惑星として、ベスタは1807年に発見された。なお、ベスタの発見以降は、1845年アストラエアが見付かるまで、小惑星の発見は途絶えた。

ベスタは、やや歪んだ形状をしており、その差し渡しは468 kmから530 kmである。メインベルトに公転軌道を有する小惑星としては、3番目の大きさであり、四大小惑星の1つに数えられる。このように比較的大きな小惑星である上に、ベスタの表面は他の小惑星に比べて、ヒトの可視光線の反射能が格段に高く、太陽光を効率良く反射する。また、地球とは公転周期が異なるなどの理由で、ある周期で地球と接近するため、地球から観測を行い易い時期が現れる。これらの理由により、条件さえ揃えば、小惑星の中では唯一、地球から肉眼で観測が可能である。

無論、肉眼による観測に限らず、ハッブル宇宙望遠鏡ケック望遠鏡により詳細な観測がなされてきた。また探査機ドーンによる観測(後述)により、詳細な表面地形が知られるようになった。探査機による観測結果、ベスタでは準惑星の要件の1つである静水圧平衡が、成立していないと判明した。

ベスタが有する他の小惑星と異なる特徴の1つとして、内部が分化しており、惑星のような層状構造を持つ点が挙げられる。ベスタの中心部には、ニッケルを主成分としたが存在し、その外側にカンラン石を主要な鉱物としたマントルを持つと考えられている。さらに、ベスタの表面は、溶岩流に起因する玄武岩に覆われているため、かつては小規模ながら、火山活動が発生していたと考えられている。これらの特徴は、太陽系の歴史の初期において、ベスタ内部が相当の熱量により融解していた事を示すと考えられる。

ベスタのような層状構造を持つ分化小惑星は、かつては太陽系内に複数存在していたと推定されている。この分化小惑星が衝突などにより破壊された結果が、太陽系に存在する小惑星に見られる組成の違いの原因の1つと考えられている。すなわち、金属質の小惑星は、古代の分化小惑星の核に由来し、岩石質の小惑星はマントルや地殻に由来するという説である。

もっとも、ベスタも太陽系形成期の姿のまま残っているわけではないと考えられている。ハッブル宇宙望遠鏡による観測により、ベスタが形成されてから10億年ほど経った時期に作られたと考えられる、直径460 kmのクレーターのレアシルヴィア(Rheasilvia)が南極に発見された。さらに、探査機ドーンの観測により、レアシルヴィアに隣接して、さらに古いクレーターのヴェネネイア(Veneneia、直径395 km)も発見された。これらのクレーターの形成した比較的大規模な隕石衝突によって、ベスタから宇宙へ飛散した物質が、他の小さなV型小惑星の起源になっているかもしれないという仮設が提唱されており、(1929) コッラー (Kollaa) や (3850) ペルチャー (Peltier) などの小惑星が、そのような天体の候補として挙げられている。また、1931年にチュニジアに落下したタタフィン隕石や、2003年にモロッコとアルジェリアの国境付近で発見されたNWA 1929隕石も、ベスタが起源だとされている。

探査

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探査機ドーンが撮影したベスタの地表。

2011年7月に、アメリカ合衆国宇宙探査機ドーンがベスタへ接近して画像を撮影した。2011年7月16日にベスタの周回軌道に投入され、それからドーンは2012年9月まで、約1年間にわたりベスタの観測を行った。この観測により、ベスタには多数のクレーターと共に、赤道周辺の溝状の地形などが発見され、画像の解析が進められていった。

2014年7月に発表された解析結果によれば、ベスタのモホロビチッチ不連続面は80 kmよりも深いと報告された[4][注釈 2]

2014年11月には、ベスタの詳細な地質マップがNASAから公開された[5]

地形

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2013年2月現在、レア・シルウィアにちなむレアシルヴィアを含む53個のクレーターが、ウェスタの処女にちなみ命名された。

レアシルヴィア(Rheasilvia)は、すでに命名済みの小惑星 (87) シルヴィアと区別するために、結合された。レアシルヴィアは高さ22 kmの中央丘を持つ[注釈 3]

ベスタの3つ連なったクレーターにはNASAにより"snowman"(雪だるま)というニックネームが付けられたものの、そのうち最大の物には正式に、マルキア(Marcia)と命名された[6]

クレーター以外のトロス(ドーム状の山)、平原、カテナ(鎖状に連なったクレーター)などの地形は、古代ローマ時代の都市や祭典から名前を取って命名された[7]

なお、ハッブル宇宙望遠鏡で観測された暗色の地域には、発見者にちなんで「オルバース地域(Olbers regio)」と仮命名されていた。しかし、ドーンの観測ではそれらしき地形は観測できなかった。

ベスタの地形図

地形一覧

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ベスタ南半球の地形図。標高は、赤系統の色の場所が高く、青系統の色の場所が低い。直径が約460 kmのレアシルヴィア・クレーターが、半球の全域を覆っており、このクレーターの中央に、高さ約22 kmの中央丘の存在も確認できる。

連鎖クレーター

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ベスタの連鎖クレーターの名は、古代ローマの都市や祭日にちなんで命名された。

地名 由来
アルバロンガ連鎖クレーター (Albalonga Catena) アルバ・ロンガ
ロビガリア連鎖クレーター (Robigalia Catena) ロビガリア

クレーター

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ベスタのクレーターの名は、大半がウェスタの処女や古代ローマの貴婦人にちなんで命名された。

地名 由来
アコニア (Aconia) アコニア・ファビア・パウリナ
アエリア (Aelia) アエリア・オクラタ
アルバナ (Albana) アルバナ
アルビア (Albia) アルビア・ドミニカ
アリィピア (Alypia) アリィピア
アンギオレッタ (Angioletta) アンギオレッタ・コラディニ
アントニア (Antonia) 小アントニア
アクイリア (Aquilia) ジュリア・アクイリア・セヴェラ
アッルンティア (Arruntia) アッルンティア
ベルリキア (Bellicia) ベルリキア
ブルッティア (Bruttia) ブルッティア・クリスピナ
カエソニア (Caesonia) アティア・バルバ・カエソニア
カルプルニア (Calpurnia) カルプルニア
カンヌティア (Cannutia) カンヌティア
カヌレイア (Canuleia) カヌレイア
カパルロニア (Caparronia) カパルロニア
チャリート (Charito) チャリート
クラウディア (Claudia) クラウディア
コエリア (Coelia) コエリア・コンコルディア
コルネリア (Cornelia) コルネリア
コスシニア (Cossinia) コスシニア
ドミティア (Domitia) ドミティア
ドムナ (Domna) ユリア・ドムナ
ドルシッラ (Drusilla) ユリア・ドルシッラ
エウマチア (Eumachia) エウマチア
エウセビア (Eusebia) エウセビア
エウトロピア (Eutropia) エウトロピア
ファビア (Fabia) ファビア
ファウスタ (Fausta) フラヴィア・マキシマ・ファウスタ
フラヴォラ (Flavola) フラヴォラ
フロロニア (Floronia) フロロニア
フォンテイア (Fonteia) フォンテイア
フルヴィア (Fulvia) フルウィア
フンダニア (Fundania) アンニア・フンダニア・ファウスティナ
ガレリア (Galeria) ガレリア・フンダナ
ゲガニア (Gegania) ゲガニア
グラエキナ (Graecina) ポムポニア・グラエキナ
ヘレナ (Helena) 聖ヘレナ
ヘレンニア (Herennia) ヘレンニア・エトルスキルラ
ホルテンシア (Hortensia) ホルテンシア
イウイニア (Iuinia) イウイニア
ジュスティナ (Justina) ジュスティナ
ラエリア (Laelia) ラエリア
ラエタ (Laeta) クロディア・ラエタ
ラウレンティア (Laurentia) アッカ・ラレンティア
レピダ (Lepida) レピダ
リキニア (Licinia) リキニア
ロリア (Lollia) ロリア・パウリナ
ロンギナ (Longina) ドミティア・ロンギナ
ルキルラ (Lucilla) アンニア・ルキルラ
マミリア (Mamilia) マミリア
マルキア (Marcia) マルキア
マリアムネ (Mariamne) マリアムネ1世
メトロドラ (Metrodora) クラウディア・メトロドラ
ミネルヴィナ (Minervina) ミネルヴィナ
ミヌキア (Minucia) ミヌキア
ミーイア (Myia) ミーイア
ヌミシア (Numisia) ヌミシア
オクキア (Occia) オクキア
オクタヴィア (Octavia) オクタヴィア
オプピア (Oppia) オプピア
パクルラ (Paculla) パクルラ・アンニア
パウリナ (Paulina) アウレリア・パウリナ
ペルペンニア (Perpennia) ペルペンニア
ピナリア (Pinaria) ピナリア
プラキディア (Placidia) ガッラ・プラキディア
プランキア (Plancia) プランキア・マグナ
プムポニア (Pomponia) プムポニア
プルティア (Portia) プルティア
プストゥミア (Postumia) プストゥミア
プブリキア (Publicia) フラヴィア・プブリキア
レアシルヴィア (Rheasilvia) レア・シルウィア
ルブリア (Rubria) ルブリア
ルフィリア (Rufillia) ルフィリア
スカンティア (Scantia) スカンティア
センティア (Sentia) アマエシア・センティア
セレナ (Floronia) セレナ
セヴェリナ (Severina) セヴェリナ
セクスティリア (Sextilia) セクスティリア
ソッシア (Sossia) ソッシア
タルペイア (Tarpeia) タルペイア
テイア (Teia) テイア・エウフロシイネ・ルッフィナ
トルクアタ (Torquata) トルクアタ
トゥクキア (Tuccia) トゥクキア
ウルビニア (Urbinia) ウルビニア
ヴルロニルラ (Varronilla) ヴルロニルラ
ベネネイア (Veneneia) ベネネイア
ヴェトテニア (Vettenia) ヴェトテニア
ヴィビディア (Vibidia) ヴィビディア

円錐丘

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ベスタの円錐丘の名は、古代ローマの都市や祭日にちなんで命名された。

地名 由来
アリキア円錐丘 (Aricia Tholus) アリッチャ
ブルマリア円錐丘 (Brumalia Tholus) ブルマリア
ルカリア円錐丘 (Lucaria Tholus) ルカリア

尾根

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ベスタの尾根の名は、古代ローマの都市や祭日にちなんで命名された。

地名 由来
ラヴィニウム尾根 (Lavinium Dorsum) ラウィニウム
ネプチュナリア尾根 (Neptunalia Dorsa) ネプチュナリア
パリリア尾根 (Parilia Dorsa) パリリア

平原

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ベスタの平原の名は、古代ローマの祭日にちなんで命名された。

地名 由来
フェラリア平原 (Feralia Planitia) フェラリア

地溝帯

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ベスタの地溝帯の名は、古代ローマの祭日にちなんで命名された。

地名 由来
ディヴァリア地溝帯 (Divalia Fossae) ディヴァリア
ルペルカーリア地溝帯 (Lupercalia Fossa) ルペルカーリア祭
サートゥルナーリア地溝帯 (Saturnalia Fossae) サートゥルナーリア祭

断崖

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ベスタの断崖の名は、古代ローマの祭日にちなんで命名された。

地名 由来
アゴニウム断崖 (Agonium Rupes) アゴニウム
マトロナリア断崖 (Matronalia Rupes) マトロナリア
パレンタティオ断崖 (Parentatio Rupes) パレンタティオ

大陸

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ベスタの大陸の名は、古代ローマの祭日にちなんで命名された。

地名 由来
ヴェスタリア大陸 (Vestalia Terra) ヴェスタリア

画像

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脚注

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注釈

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  1. ^ ただし、発見当初は小惑星に分類されていたケレスは、2006年に準惑星に分類変更された。
  2. ^ この解析の実施以前は、ベスタのモホロビチッチ不連続面の深さは、30 km程度と考えられていた。
  3. ^ 大規模な隕石衝突でクレーターが形成された際には、クレーターの中心部に隆起した場所が形成される場合が有る。この現象は、地球でも事例が知られている。

出典

[編集]
  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v 4 Vesta (A807 FA)”. Small-Body Database Lookup. JPL. 2024年8月29日閲覧。
  2. ^ 小惑星日本語表記索引 : 1 - 50”. 日本惑星協会. 2019年3月9日閲覧。
  3. ^ 『オックスフォード天文学辞典』(初版第1刷)朝倉書店、34頁。ISBN 4-254-15017-2 
  4. ^ “宇宙: ドーン探査機が照らし出すベスタの地殻マントル境界”. NATURE. (2014年7月17日). http://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/54575 2014年7月21日閲覧。 
  5. ^ “Geologic Maps of Vesta from NASA’s Dawn Mission Published”. NASA. (2014年11月17日). http://www.nasa.gov/jpl/dawn/geologic-maps-of-vesta-from-nasa-dawn-mission-published/index.html 2014年11月18日閲覧。 
  6. ^ マルキア (Marcia)”. planetary names. USGS. 2023年12月1日閲覧。
  7. ^ Rheasilvia super mysterious south pole basin at Vesta is named after Romulus and remus roman mother”. universe today. 2023年12月1日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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